Under the hazymoon

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年末続々中国古典学入門書

もう何年か非常勤で半期だけの中国の古典という授業をさせていただいているのですが、2008年度から教科書として漢和辞典を指定するという試みを始めてみました。中国古典に関する基礎知識だけでなく、多少なりともの実用性と、アカデミズムとしての中国古典学を知ってもらおうという内容で、かつ受講者は中国学専攻でないという条件を満たすには、やっぱり漢和辞典をひっくり返して味わってもらうのがいちばんかなと思いいたったというわけです。

改良の余地はおおいにあるので、4月も継続させてもらえるようなら、教科書としての漢和辞典利用をもう少し進めてみようと思っていたところ、ナイスな本が出てました。
円満字二郎『漢和辞典に訊け!』(ちくま新書、2008年12月)です*1。原理主義的に部首索引からでなく、初心者が漢和辞典を手に取る気になるよう手軽な音訓索引からはじめて、漢和辞典の利用方法から漢字を考えるという類書とは一線を画した構成になっています。付録の「独断!漢和辞典案内」も便利です。すばらしい!(^_^)
ちなみに僕は授業では三省堂の『全訳漢辞海』を使っています。学生の頃に使ってた『新字源』でもいいんですが、授業の上での利点として以下の3つがあるんですね。

  • 四部分類が載っている
    • ので、これに沿って文献学に寄り添いつつ、中国哲学のおおまなか説明をしたりできる。
  • なりたちが『説文解字』の邦訳
    • なので、漢代学術の基礎となる漢字世界を概観できる。
  • 六十四卦図が本文頁と対応している
    • ので、超絶簡単易占いができて、中国の伝統的な宇宙観を楽しく説明できる。

もちろん、補うべきところはあるので、副読本的な資料の作成は必須ですけど。

ただ円満字さんの本は、あくまでの漢字の本なので、その先、中国古典の基礎をとなると、坂出祥伸『中国古典を読むはじめの一歩―これだけは知っておきたい』(集広舎、2008年10月)が出ています*2倉石武四郎内藤湖南の評を引用しつつ目録学の歴史をたどるという学史としての入門書にもなっていて、おもしろく読めるのですが、中国古典を専門にしてない学生にはちょっと専門に過ぎるかもしれません。紀要に載ってたのを見つけてコピーしてたのですが、本になったので速攻で買った次第です。

  1. 古典を読むために知っておきたいこと
    1. 古典文献の体裁について-体裁により分類され、それぞれに呼称がある
    2. これだけは知っておきたい版本の知識
    3. 古典のなかには偽書もある
    4. 文中で皇帝の諱などを避け文字を改める習慣がある
    5. 文中に反切などの発音表記がある
  2. 古典の分類はどのように展開したか-目録学の初歩
  3. 中国古典をより深く理解するために-工具書・入門書を利用しよう
  4. 附編 日用類書について

こういうのをマスタークラスの先生が書いてくださるのはうれしいかぎりです。

漢字、テキスト、とくれば最後に思想。僕自身古典が好きとはいえ、道学者先生よろしく、古典の妙味を味わって、なんてのもなーと思って、儒仏道三教の基層的な思想や信仰から中国の古典を考えるという授業をしているんですが、そのあたりを西欧の文化状況と絡めつつ軽妙に語ってくれてるのが、菊地章太『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』 (講談社選書メチエ、2008年12月)*3です。テーマがテーマだけに、駆け足すぎるきらいはありますが、気になるトピックを自分で広げていくよいきっかけになるかと。
信仰から思想を読むというのは、宗教者としてではなく、頭じゃなく身体を使って思想を読むことじゃないかなあと思ったり。漢学ないし儒教に近づきすぎると、前近代的な仕草のまま近代やってるつもりになっちゃうので、その解毒によいのかなあ。

*1:[asin:4480064621:detail]

*2:[asin:4904213025:detail]

*3:[asin:406258428X:detail]