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nomurahideto's blog

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走圏とモデルウォーキング

NHK BSプレミアムの『アインシュタインの眼』で『#143 スーパーモデルに学べ!正しく歩いて健康に』というのを放送してました*1。スーパーモデルに「美しいウォーキングを学ぶことで、私たちも健康に、そしてキレイになれる」とのことなのですが、いやいやいや、歩いて健康にといえば、八卦掌の走圏だってそうではないですか。果たして走圏とモデルウォーキング*2にはどんな違いがあるのか?食い入るように見てしまいました。

さて番組によれば、モデルウォーキングの要点は次の三点にあるとのこと。

  1. 頭を後ろに吊り上げるようにして背筋を伸ばし、頭、肩、腰が一本の直線で結ばれていること。
  2. 一直線上に足を置いて歩くこと。
  3. 地面を足が離れるときは親指の先がぎりぎりまで地面にふれ、足を地面につけるときはつま先を大きく立てること。

内転筋やら大腰筋やら普段使わない筋肉をしっかり使うので代謝がよくなり健康とダイエットによい、という訳なのです。

この三つの要点は、しかしよくよく考えてみると、走圏の要求と全く同じなんですね。もちろん例えば馬貴派八卦掌の走圏は低く沈んだ重厚な歩みです。すらりとしたスーパーモデルのウォーキングとは一見似ても似つかぬように思えるかもしれません。
まあ第一の背筋を伸ばすことについては、確かに走圏とウォーキングで異なるところはありません。ですが、第二、第三の要点はむしろ逆であるようにも思えます。第二の歩く動線については、走圏では両の足は平行して進み交わることは厳禁です。第三の地面と足の関係にしても、走圏では平起平落が求められます。
しかし第二、第三の要点における走圏とウォーキングの相違点は、重心を高く維持するか低く維持するかの違いから生じた表面的なものでしかありません。健康面での身体に対する効果は異なるところがないのです。

まず第二の要点です。一直線上に足をまっすぐ伸ばして交叉させて歩くことは、足幅を開いて歩くより太ももの内側の内転筋が鍛えられ、しっかり力も入って安定して歩けると考えられています。
走圏は全く逆に足を平行に動かしています。しかし走圏では座るように姿勢を低くして歩くことが求められます。そうするとどうなるか。空気椅子に近くなれば、身体を支えるためにやはり内転筋をしっかり使うようになるんですね。そして足を曲げている場合は、平行に動かす方が身体をしっかり支えることができます。つまり、足を伸ばしているか、曲げているかの違いであって、鍛えられる部分に違いはないのです。

続いて第三の要点です。走圏とウォーキングでは実は足の使い方は全く同じです。地面を離れるときと接するときの足の形がたんに逆になっているだけなのです。走圏では、平起、地面から足の裏を水平に持ち上げます。もし身体を落とした状態でそのように足を上げようとすれば、ウォーキングで足をおろすときのようにつま先が下腿に近づくように曲げるしかなくなります。そして平落、地面に対して足の裏を水平に接するようにするときには、全身の体重を載せるがごとくつま先までをしっかり伸ばすことが、ウォーキングでぎりぎりまでつま先を残すように足を地面から離すのと同じ形が要求されています。同じ形で同じ負荷がかかっている訳ですから、やはり鍛えるという点で異なるところはないと言えるでしょう。

したがってモデルウォーキングで得られる健康は八卦掌の走圏でも得ることができる!ということなのです。
。。。そうです、健康については。
問題はやはりビューティなんですね。健康という点では、むしろ重心を落とす走圏の方が負荷がより大きいのでよりしっかり身体を鍛えることができるでしょう。しかし両者の決定的な差異、重心を高く保つか、低く保つか、この違いが、おそらく僕たちに及ぼす美意識に関係してきますし、現実的な体型にも影響してきます。
ようするにモデルウォーキングはバレエと同じで、上を意識します。空を飛べない以上、身体は上下に伸ばされます。対して走圏は、下を意識します。身体は上下につぶすように沈められていきます。
地面に根を張っているかのような安定したさまを美しいと感じることは古来よりあったでしょう。しかし、天上へと飛び去るかのような浮遊したさまも美しいと感じてきたはずです。前者を武の美、後者を文の美と考えれば、僕たちはより後者の方を美しいと思うようになってきてしまったのだということなのでしょう。
より物質的に豊かになり、より社会が安定していくと、あるいは自然に後者を好むようになるのでしょうか。近年のスピリチュアルブームは、依然文の美を選んでいますが、社会に対する不安との関係からすると、どこかで武の美を求めるようになってきている兆しなのかもしれません。
僕個人は、地面に根を張ったような八卦掌の安定さの方をより美しいと感じるようです。

*1:http://www.nhk.or.jp/einstein/archive/index.html

*2:番組とは関係ないですが、お世話になったことがあるのでこちらの方を。
[asin:4903620093:detail]