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安岡正篤と静坐(1):柳田誠二郎との関係

安岡正篤の思想の実践性のうち、身体技法の方面に関して、その具体的な内容は不勉強にして知らず、その著作や関連資料から探る試みをようやく始めたところです。とりあえず『安岡正篤とその弟子』に収録されている「朋友・安岡正篤を偲ぶ」と題された座談会記録は重要な傍証になると思います。というのも、話者の一人に、岡田式静坐法の実践者として知られる柳田誠二郎(日本航空相談役)がいるからです。なお、他の話者は、江戸英雄(三井不動産会長)、大槻文平(三菱鉱業セメント会長)、前原達一(岩崎電気相談役)。柳田と安岡との関係は、「二・二六事件のずっと前から安岡先生の話は聞いていた。最初は「いかにして革命思想に勝利するか」という題のお話だった。そのあと海外出張に行ったら、ロンドンに安岡先生が来ているんですよ。……その時、近しく知り合いになった」とのことです*1

さて、身体技法に関連した思い出として、柳田は次のように語っています。

本誌 柳田さんが、安岡先生から、人は背中を見れば人柄がわかるんだというようなことを教わったとおっしゃいましたが。

柳田 うん。先生は人相とか姿勢とか中国の考え方を受けて、そういうことには非常な興味を持っておられましたよ。

 あと私の印象に残っているのは、健康法を具体的に教えてくれたことです。

大槻 そう、健康法は詳しかった。

柳田 お風呂へ入る時でも、初めに胸の下ぐらいまでしか入れるなとかね。酒を飲んだあとの湯の入り方とか。

前原 真向法なんかも安岡先生がだいぶ宣伝されていましたね。ああいう健康法についてはずいぶん研究しておられた。*2

柳田 真向法はお得意だったね。

江戸 静坐は?

柳田 静坐的な思想は強く持っておられたね。東洋流の哲学に始まって、長生き法までよく知っておった。

大槻 漢方薬もね。

柳田 漢方の根本をよく知っているんですね。博学ですよ。本当にあのぐらいものを知っている人はいなかったなあ。

……

前原 そういえば、柳田さん。今度岡田式静坐法の本を出したでしょう。岡田さんが四十九歳で亡くなって、その静坐法もなくなってしまうと思っていたら、こういう高弟がいて、ちゃんと守っている。

大槻 岡田式っていうのは、あの、板の上に寝るという……。

柳田 本当はそうなんだけどね。

江戸 横隔膜を下げるというやつね。

大槻 あの本を読んで、横隔膜を下げるといっても、むずかしくてできないね。

柳田 だけどそれをやらなけりゃダメですよ。大槻さんは学生時代にボートを漕いで鍛えたでしょ。そういう意味ではパーフェクトなんだ。あとは内臓を調整しないと、歳が歳だけにね。ほんとですよ。

大槻 もう半寿ですからね。

柳田 もう筋肉つける必要はない。内臓を強くすること。簡単な理屈なんだ。みぞおちが落ちさえすればいいんですよ。

大槻 それができないんですよ。

柳田 でも、その練習をしなけれりゃ。

大槻 安岡先生のサジェッションでもあるんですか。

柳田 先生とは関係ないが、意見は一致しているんだ。私がその静坐の話をすると、先生ちゃんと知っていましたからね。先生はそういう健康法を知っているんです。*3

 岡田式静坐法について、寝て行うのを本来の方法と話しているのは注目されます。それだと本当に白隱禪師の系譜に連なってしまいますから。話題になっている書籍は、前後関係で考えて以下のものでしょう。中身を確かめてみないと。

 

静坐の道―岡田式

静坐の道―岡田式

また安岡正篤自身は岡田式静坐法は行っておらず、真向法に熱心であったこと、しかし健康法としては同じものだと認識していたことも伺えます。

 

参考文献:

安岡正篤とその弟子

安岡正篤とその弟子