Under the hazymoon

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八卦掌の八卦は空間ではなく時間を示すこと

ワン ユージエ師(正体がばれないよう漢字は当てない)が僕に問いかけた。
「君の武術の師匠は、八卦掌の八卦という言葉自体には方向を示したりする上で、特別な意味はない、と教えているそうだね?」
「はい、李先生は、乾がどっちの方角だとか、一周を八卦に合わせて八歩で歩けとか、そういうことは言われないですね。」
「うむ、それは正しい。というのも、八卦掌の八卦は、本来空間を指示するものではなかったのだよ。」
「空間ではない。。。では、時間ということでしょうか?」
「うむ、なかなか分かってきているな。そう、修行における季節の重要性なのだ。日本の江戸?時代だったか、有名な禅僧の話をこのあいだしていたろう?」
白隠禅師ですね。夜船閑話に八卦と気の消長について書かれた部分があります。。。あれ、忘れてきちゃった。代わりに『近世畸人伝』の白幽子の条を参照しましょう。現行の閑話とは文字の異同がありますが。ええと、

五陰上に居り、一陽下を占む。是を地雷復といふ。冬至の侯也。真人の息は踵を以てするの謂、三陽下に位し、三陰上に居す。是を地天泰といふ。孟正の侯也。天之を得れば。則万物発生の気を含み、百草春化の沢を受く。至人、元気を下に充たしむるの象。人、是を得れば、営衞充塞、気力勇壮也。之に反する則は五陰下に居り、一陽上に止る。是を山地剥といふ。九月の侯にして、天人ともに枯槁揺落の象也。かかれば真気を臍輪丹田に蔵し、歳月を重て、守一無適なれば、長生久視の神仙なるべし。浩然の気を養ふといふも亦是也

となっています。」
「そうそう、この地天泰の象が上虚下実の理想を表すものなのだ。しかし間違えてはいかんぞ。この象だけが大切なら八卦掌とは言わない。それに第一、道教の理想は純陽の体、乾卦だな、それを目指して陰の気を消し去ることだろう?」
「確かに先生のおっしゃる通りですね。何故だろう。。。」
「変化だよ。そのまま神仙にでもなって飛び去ってしまえるのならいいが、なかなか無理な話だ。いいか、一年を通じて陽の気は増減する、これは自然の摂理で誰も逆らえない。そこで、その変化に合わせて、その時々に修行の方法やテーマを変える。自然に逆らわなければ、自分が持ち合わせている気を疲弊させずにすむ。それでようやく気を貯めることができる。稼いだ端から使っておっては何も貯まらないだろう?全体の流れを知らないといかん。地天泰はその気の流れ、変化に対応できる。陰陽半々だからな。安定した理想の状態とは、動的な平衡の実現なんだよ。」
「循環と変化ですね。白隠より後の佐藤一斎も同じようなこと書いていたような。」
「そうだろう、そうだろう。」
「李先生も練習において季節や気候の変化をすごく重視されています。」
「さすがだな。君もそれだけ理解がすすんでいれば、次の口訣を授けてもいいだろう。いいか。。。」
「こうですか?」
「ちがう、ちがう」
(続く)